退職代行を使われた側の者です。
ある日の朝突然、代行からの電話1本で退職。
しかも、理由は一切言うつもりはないと、代行会社を介して言われました。
勤務していた時、1度もそんな気配も見せずニコニコして仕事をし、周りも何の心当たりもない。
腹が立ってしょうがないです。
代行を使われた側の方、どう気持ちを整理しましたか?
退職は、労働者の意思表示により効力が発生します。
そのため、たとえ代行会社からであっても本人の意思表示の真意に基づいていれば、会社側の承認は必要としません。
とは言え、突如退職を言い渡されたら、誰だって間違いなくショックを受けます。
では退職代行を使われたらどうすればいいのでしょうか?
本記事では、
- 退職代行を使われてショックを受ける理由と原因
- 退職代行を使われた企業の対処法
- 退職代行サービスを使われた時の注意点
以上について解説します。
目次
退職代行を使われたらショック!その原因は「予想しないことが起きた」から
「退職代行を使われてショック」と言われてる理由を、SNSやネット上の書き込みで調査してみました。
以下はその理由です。
- 突如いなくなる
- 筋を通さない
- 辞めそうな雰囲気がなかった
- 何の説明もなく理由も聞けない
- 挨拶もない
- 急に人が減って困る
- 社内によそよそしさが残る
- フィードバックができない
つまり退職代行を使われてショックを受ける人の多くは、「予想しないことが起きた」ことに起因しています。
まさか自分の会社に、退職代行業者から連絡が来るなんて思いもよらなかった。
ニュースで見ていたことが当事者になるなんて。
退職代行を耳にしてはいたものの、実際に利用されたことに驚きを隠せない様子からショックを受けているようです。
退職代行を使われたらショック!会社は一体どうすればいい?
では、退職代行サービスを使われた方、つまり企業側はどうすればいいのでしょうか?
結論、退職を拒むことは不可能です。
なぜなら以下の民法627条により、従業員には退職する自由があり、法律的に拒否することはできないからです。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法627条 解雇・退職について)
しかし、この民法627条に該当するのは、期間を定めない、つまり一般的な雇用契約を結んでいる社員です。
契約社員など有期雇用者の場合、契約期間が終わるまでは基本的に退職することはできません。(民法628条)
但し、退職代行サービスの利用を検討している人の中には、
「パワハラに耐えられない」
「当初の話と業務が全く違う(事務→営業など)」
といった意見が見受けられ、これらは民法628条の「やむを得ない事由による雇用の解除」が適用可能です。
場合によっては、契約社員など期間契約を交わしている社員でも、退職代行サービスを利用して辞めることができるのです。
退職代行サービスを使われた時の注意点
では、退職代行サービスを使われてしまったら、どのような点に注意したら良いのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
代行業者の身元を確認する
退職代行サービスからの連絡があった際には、まずその業者が信頼できるかどうかを確認することが重要です。
なぜなら、退職代行業者を名乗る詐欺や嫌がらせの可能性もあるためです。
社名や所属、氏名を聞き、公式サイトや口コミをチェックし、実際に信頼できる業者かどうかを確認しましょう。
もしも相手が弁護士であれば、弁護士名義で内容証明郵便や通知書が送られてくるので、書面で確認を取ることができます。
相手が弁護士の場合
退職代行業者が行なっているのは、正に読んで字の如く「代行」ですが、弁護士が行っているのは、法律関係についての「代理」です。
弁護士は、法律関係の業務を代理して行うので、退職日や有給消化といった交渉を代理して行うことができます。
以下は、代行と代理の違いの例です。
代行 | 代理 |
営業代行 | 契約締結 |
家事代行 | 契約解除 |
運転代行 | 交渉 |
電話代行 | 意志表示 |
家族代行 | 裁判 |
弁護士は悪質な業者とは違い、妥当な解決を図ることを目的に連絡してきます。
だから焦らず冷静に、基本的には弁護士に従って手続きを進めましょう。
相手が弁護士ではない場合
委任状を持ち合わせていないのであれば、相手は弁護士でもなんでもなく、ただの民間事業者です。
弁護士以外が退職手続きにおける交渉を行うことは、「非弁行為」と見なされ違法になります。
なぜなら交渉ができるのは弁護士のみと、弁護士法72条で定められているからです。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(第72条 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
つまり、退職代行サービスは報酬を目的しているため、民間事業者が交渉することはそもそもできません。
仮にした場合、当然ながら罰せられます。
<※補足>
弁護士以外の司法免許を持つ「司法書士」も、交渉行為はできません。
司法書士は主に書類作成業務を行なっており、必要な書類やアドバイスをすることは可能です。
司法書士の中でも「法務大臣認定司法書士」であれば、140万以下の請求(残業代、退職金など)を交渉することが可能です。(司法書士法3条)
但し、残業代の請求には同時に不当解雇も争点になりかねず、その場合は140万を超えてしまうため交渉ができなくなります。
また労働組合も労働組合法を基に、退職に関する交渉の権限があります。
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。(労働組合法6条 交渉権限)
労働組合に代行を依頼する場合、労働組合への加入、組合費の支払いといった手続きが必要です。
つまり、
「離職希望者が労働組合に入り、労働組合員になった上で代理人に退職手続きを行ってもらう」
ということです。
本人確認をする
果たして退職志願をしたのはその従業員なのか?本人確認を行いましょう。
方法は簡単で、代行業者に対して本人の免許証や社員証など、身元を確認できるものの提示をお願いするだけです。
もしかしたら本人の意志ではなく、
- 金銭問題
- いじめや嫌がらせ
- 不倫
など、別の第三者が辞めさせるために仕向けたり、トラブルに巻き込まれているかもしれません。
万が一この状況で退職に加担すると、「退職を強要した」と見なされ違法性が高くなります。
予期せぬトラブルを避けるためにも、本人が志願しているのかを確認するために、本人確認を必ず行いましょう。
委任状、退職届を確認する
退職を代行してもらうには委任状と退職届が必要となります。
委任状とは、代理人による申請等が本人の意思に基づくものであることを証明するものです。
ここでは、退職手続きを他人に代行してもらうにあたり、書面でその権限を付与することを意味します。
退職代行業者は委任状を受け取った後、勤めている会社に対し退職届の提出を依頼します。
会社側は退職届を提出してもらうことにより、以下2つのメリットがあります。
- 意思確認ができる
- 本人の自己都合退職になる
退職届は、免許証や社員証といった身元確認とは別に、退職は本人の意思によるものか確認が取れます。
また退職届を提出してもらうことにより、倒産や解雇を理由とした離職にはならない上、以下のような雇用関係の助成金を受け取ることができます。
・キャリアアップ助成金(Ⅰ正社員化コース)
・トライアル雇用助成金
・労働移動支援助成金
・中途採用等支援助成金
・特定求職者雇用開発助成金
多くの雇用助成金は、安定した雇用の促進を目指しています。
そのため解雇とみなされる「会社都合の退職」は、これらの助成金の目的に反しています。
この理由から、会社都合で離職した人がいる事業所は、しばらくの間、助成金の支給対象外となることがあります。
離職票、給与明細など必要書類の提出
退職代行サービスを通じて社員が退職する際には、離職票や給与明細などの書類提出が必要です。
離職票は失業保険の申請に必要であり、退職した後に失業給付を受けながら就職活動をする人には欠かせません。
また給与明細は、最終的な給与の確認と税務処理に欠かせません。
給与明細は、退職・転職手続きの中で、
- 収入の証明になる
- 源泉徴収票の代わりになる(場合がある)
- 転職先で必要(雇用保険被保険者番号や年金番号)
- 税金の支払いが確認できる
というように、証明や記録の照合資料として役立ちます。
退職する社員に限らず、転職先の会社にも影響しますので、これらの書類を速やかに提供するようにしましょう。
貸与物の返却依頼
会社から貸与、支給している物品の返却依頼を行いましょう。
- パソコン
- 携帯電話
- 社員証
- セキュリティカード、鍵
- 事務用品
- 制服
など、会社が社員に貸与しているセキュリティに関わるものが多く、後任の業務にも関わる重要な資産です。
これらの返却を確実に行うことで、会社の資産を保護するほか、無駄なコストを防ぐことができます。
退職代行業者には、
「退職に伴い、会社から貸与されているパソコン、携帯電話、制服の返却をお願いします。制服はクリーニングを行った上で返却してください。送付先は本社までお願いします。送料はご負担願います。」
と具体的な指示をしましょう。
尚、貸与物の返却をお願いする時には、貸与物リストを作成してから後日代行業者へ連絡すれば、返却漏れを防ぎ、引き継ぎもスムーズになります。
社員にヒアリングする
退職代行サービスを通じて社員が退職した場合、周囲の社員にヒアリングを行いましょう。
退職を志願した社員の同僚からのフィードバックを集めることで、退職の原因となった問題が他の社員にも影響を及ぼしていないか、確認することができます。
これにより、同様の問題が再発防止に繋がります。
たとえば、
「最近の職場環境についてどう感じているか?」
「特定の業務に問題はないか?」
「パワハラや人間関係のトラブルは起きていないか?」
このような質問をして率直な意見を集めます。
恐らく、各自の立場により回答できないケースも考えられるので、個別で話す機会を設けたり、匿名で意見を集められるGoogleフォームなどを活用し、社員が言いたいことを言える仕組みを整備しましょう。
このフィードバックを元に必要な改善策を講じることで、他の社員が同様の理由で退職するのを、未然に防ぐことができます。
退職代行を使われたら損害賠償請求を起こせる?
退職代行を使った部下に損害賠償を請求することは可能ですか?
突如、赤の他人に退職を言い渡されたら、怒りの感情が湧いてくると思います。
「会社の規定を無視してなんてことしてくれるんだ!損害賠償を起こしてやる!」
という気持ちになるかもしれません。
果たして損害賠償を起こしていいものでしょうか?
結論から述べると、損害賠償が成立することはほぼ不可能です。
先に述べた民法627条、628条にある通り、労働者には退職の自由があります。
つまり退職するのは法律で決められているので、「退職するから損害賠償」というのは成立しないようになっています。
それに、労働基準法第16条には、「労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしてはいけない」とあります。
つまり、
「違約金を払え」とか「会社に損害を与えたから〇〇円を請求する」という行為自体、禁止されているのです。
残されているのは、「突如、来なくなること(職務放棄)に対して損害賠償請求ができるのか?」という点です。
これについては、離職希望者が「有給休暇を利用する」「病欠する」ことで逃れられるので、賠償請求しても意味がありません。
従業員が退職するまでの間に有給を使うと言えば、会社側はその時期を変更する権限を持っていません。
また万が一、その離職希望者が有給を1日たりとも使っていない場合、労働基準法の第39条第7項違反として罰金が科せられる可能性もあります。
病欠に至っても、診断書1枚で「病気である」ことが証明できます。
以上の通り、損害賠償請求を起こしたとしても、ただお金と時間がかかるだけでほとんど意味がないのです。
それに、「退職代行を使ったら損害賠償で訴えられるんだ…」と他の社員に対しても、会社に対する信用を損なうだけでメリットはありません。
そんなことよりも、「なぜその人が退職代行を使ってまで辞めたかったのか?」を冷静に考えるべきです。
参考:弁護士タケハラ退職代行
退職代行を使われないようにするには?企業がやるべき対処法
社員が退職代行を選ぶ背景には、職場環境やコミュニケーションの問題が潜んでいます。
企業がこうした問題を解決し、社員の信頼を得るためにはどのような対策が必要か?
ここで退職代行の利用を防ぐための具体的な方法と、社員満足度を高めるための施策についてご紹介します。
退職代行を利用する理由を考える
退職代行を利用するのには、一体どのような理由があるのか分析しましょう。
別の記事でも触れていますが、退職代行を利用する理由は、職場環境に問題があったりハラスメントを受けたなど、真っ当なものばかりです。
退職代行を使う理由
- 職場環境がひどい
- 退職したいのに言いづらい
- 辞めさせてくれない
- 退職までのやりとりがめんどくさい
- 楽だから
- 既に別の仕事が決まっている
- パワハラやセクハラを受けていた
- 心を病んでしまった
- 法的な問題を避けたい
- とにかくもう限界
また、エン・ジャパンの退職代行実態調査では、退職代行を利用した理由の1位が「退職を言い出しにくかったから」とあります。
退職代行サービスを提供している弁護士曰く、突如音信不通になったりバックレたりするような人ではなく、まともで真面目な人からの相談が多いそうです。
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仕事を辞めさせてくれない時の最終手段:バックレる前に知っておくべき事と対処法
会社を辞めさせてもらえないのでバックレようか考えています。 バックレた場合、何か困ることはありますか? 上記はネット上に投稿された、会社を辞めさせてくれないため、バックレようか迷っている人 ...
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事前の対話を心がける
企業が社員に退職代行を使わせないためには、事前の対話を心がけることが重要です。
日頃からのコミュニケーションを大切にすることで、社員の問題や不満を早期に発見し対処することができます。
たとえば、定期的な面談やオープンドアポリシーを導入することで、社員が気軽に意見や不満を表明できる場を提供することができます。
このような環境が整えば、社員は安心して会社に相談しやすくなります。
企業が従業員との対話を重視すれば、信頼関係を築くことに繋がり、結果的に、社員の満足度や忠誠心の向上にもつながります。
サポート体制を強化する
社員が安心して働ける環境を提供するためには、サポート体制は欠かせません。
相談窓口やカウンセリングが受けられる場を設ければ、問題解決のための適切な対応が可能となります。
これらを通じて、会社に対する不満や悩みをフィードバックし、仕事に対する満足度、働きやすい職場環境の構築・改善を促します。
企業は積極的にサポート体制を強化し、社員が安心して働ける環境作りに努めることを優先すべきでしょう。
日頃から感謝の気持ちを伝える
社員や部下が安心して働き続けるためには、感謝の気持ちを積極的に伝えることです。
日々の業務や成果に対して、上司や同僚から感謝の言葉があることで、自分の努力が認められていると感じ、モチベーションが上がります。
2人きりで話す機会、会議の最中、社内イベントでみんなの前で表彰するなど、感謝の気持ちを伝える方法はいくらでもあります。
また日常的に伝えることで、社員は自己価値を感じ、職場への愛着が深まります。
結果として、社員が退職を考える際にも、会社との良好な関係を保ち続ける可能性が高まります。
感謝の気持ちを伝える文化を築くことは、社員のエンゲージメントの向上と、離職防止に大いに役立つのです。
社内文化・社風の改善
社員が長く安心して働ける環境を提供するためにも、社内文化や社風の改善が必要です。
働きやすい環境づくりに取り組み、社員の満足度を向上させましょう。
普段から職場の人間関係や業務内容に対する意見を聞き、現場の状況を把握するのは大切なことです。
アンケートやフィードバックを通じて社員の声を収集し、組織改革に役立てることで、職場環境の継続的な改善が可能になります。
こうした取り組みにより、社員の満足度が向上し、離職率の低下につながります。
また、退職理由に関連する問題を未然に防ぐことも重要です。
たとえばパワハラや過重労働などの問題は、社員の離職理由としてよく挙げられます。
これらの問題を防ぐために、企業は適切な研修や指導を行い、健康的で公正な労働環境を確保する必要があります。
全体として、社内文化の改善は社員の働きやすさを向上させるだけでなく、企業全体の生産性や士気を高めることにもつながります。
社員が安心して働ける環境を作ることで、企業の持続的な成長を支えることができるのです。